大阪高等裁判所 昭和55年(ラ)627号 決定 1980年12月23日
抗告人
鈴木静馬
主文
原命令を取消す。
理由
一本件抗告の趣旨および理由は、別紙のとおりである。
二当裁判所の判断
1 一件記録によれば、原裁判所に同裁判所昭和五五年(手ワ)第一二九号約束手形金請求事件が係属していたところ、同裁判所が昭和五五年一〇月二〇日午前一〇時に右事件の第一回口頭弁論期日を開くべく、本件訴状記載に基づき本件被告等に対しその旨の呼出状を送付(訴状送達を含む。)したこと、しかるに、右呼出状はいずれも転居先不明で送達不能となつたこと、抗告人(原告)の右請求は本件約束手形の被裏書人兼現所持人である同人が右手形の振出人(被告松浦陽一)ならびに右手形の受取人兼裏書人(被告山内昌助)に対するもので、その請求原因は右手形がその満期に支払いのため支払場所に呈示されたところ、支払いを拒絶され所謂不渡りになつたため、抗告人が右被告等に右手形金(金一五〇万円)およびそれに対する遅延損害金の支払いを求めるというにあること、右訴訟は抗告人本人によつて追行される所謂本人訴訟であること、同裁判所が右事件の第一回口頭弁論期日(昭和五五年一〇月二〇日午前一〇時)に出頭した抗告人に対し同日より一〇日以内に同事件の被告等の住所を補正すべく命じたこと、同裁判所が同月三一日抗告人において右命じられた期間内にその補正をしないことを理由に抗告人の本件訴状を却下する命令をしたこと、右命令が同年一一月一日抗告人に送達されたこと、抗告人がこれを不服として同月七日当裁判所に右命令に対する即時抗告をしたこと、抗告人が同月二一日当裁判所に前叙請求事件の被告等の送達場所が判明した旨の上申書を提出したこと、右上申書には「被告山内昌助につき大阪府東大阪市下小阪六七五番地渡辺護方、被告松浦陽一につき大阪府守口市寺方錦通四丁目二八番地府営錦通住宅四棟五〇三号」と記載されていること、右上申書に記載された被告等の送達場所は右上申書に添付された住民基本台帳および住民票、戸籍附票原本の各写と符合すること、が認められる。
2(一) 民訴法二二八条一項所定の補正命令における補正期間は、裁判長がその裁量によつて相当と認めた期間であるところ、被告の転居のため送達不能となつた場合の右期間は、原告において被告の転居先の調査に時間を要するから、その余裕を十分みこしてこれを定めるのが相当である。
これを本件についてみるに、右認定にかかる本件請求の趣旨および原因、被告等に対する呼出が送達不能になつた理由、および本件訴訟が所謂本人訴訟である点等を総合すると、原裁判所が右認定のとおり抗告人に対し補正を命じた補正期間は、短かきに失するというほかはなく、したがつて、右補正期間の徒過を理由に本件訴状を却下した原命令も、この点で妥当とはいい難い。
(二) 加えるに、訴状の欠缺の補正は、訴状却下命令に対する抗告審においてもなし得る、と解するところ、右認定事実に基づけば、抗告人は当審において本件訴状の欠缺部分を右認定にかかる上申書記載のとおり補正した、と認めるのが相当である。
3 叙上の認定説示に基づくと、本件抗告を容れ、原命令を取消すのが相当である。
よつて、原命令を取消して、主文のとおり決定する。
(大野千里 岩川清 鳥飼英助)
〔抗告の趣旨〕
原決定を取消す。
との裁判を求める。
〔抗告の理由〕
一、本件訴訟は、所謂手形訴訟であるので被告への訴状送達場所は、第一次的には手形上に記載された住所地番であると考え、そのとおり記載したところ、被告両名とも、送達不能となつたもののようであり、このこと及び送達場所につき一〇日の期間内に補正するよう告知を受けたことは事実であります。
二、そこで、原告は早速、被告両名の住民登録を調査すると共に、その住所地に現に居住しているか否かを現地調査したところ、別紙添付住民票にみられるように、被告両名とも住所を転々としており、その住所が確定的に定まつておらず、被告両名の送達場所を定めるためには、住民登録等現地調査を詳細にわたつて、おこなつていかなければならず、それがためには、かなりの時日を要することは明白であり、前記期間内に送達場所に関する補正を、おこなうことは事実上不可能であるにも拘らず、前記補正命令は、わずか一〇日間という期間内の補正期間しか指定していない。
三、しかるに原決定は、原告が補正するに可能な補正期間を一切考慮にいれずなされた補正命令に基づくものであつて、原告の訴訟上の行為を極度に制限したものである。
四、よつて抗告の趣旨記載の裁判を求める。